アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎は、適切な治療により症状がコントロールされた状態が長く維持できると、症状がなくなる「寛解」が期待できる病気です。生活環境や生活習慣などによっては再び症状が出現することもありますが、年齢とともにある程度の割合で寛解することや、症状が軽い患者様ほど寛解する割合が高いことがわかっています。
炎症に対しては、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害外用薬を個々に、あるいは組み合わせて使用します。かゆみは抗ヒスタミン薬で抑制します。
重症例では、ステロイド内服やシクロスポリン内服、JAK阻害薬の内服、生物学的製剤などを検討します。
保湿薬とこれら薬剤の適切な使用法を理解していれば、ほとんどのアトピー性皮膚炎はコントロールできるようになります。
アトピー性皮膚炎に対して紫外線療法を保険適応で行うことができます。湿疹部位に対して有害な波長を除いた紫外線を当てることで炎症を抑える効果があります。週に週1〜数回の治療で効果を発揮します。
一般的に用いられる主な薬剤
抗炎症外用薬
(1)ステロイド外用薬
ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎治療の基本となる薬剤で効果的に炎症を抑えます。炎症を抑える強さによって、①ストロンゲスト、②ベリーストロング、③ストロング、④ミディアム、⑤ウィークと、強い順に5つのランクに分類されています。剤形は、軟膏、クリーム、ローション、テープがあります。症状により適切なランクの外用剤を選択します。
(2)タクロリムス軟膏
細胞内の免疫反応が高まっている状態を正常に整える(カルシニューリンを阻害する)ことで皮膚の炎症を抑制します。炎症を抑える作用機序がステロイドと異なるため、ステロイド外用薬で治療が困難な場合にも有効です。
(3)JAK阻害外用薬
細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たすJAK(ヤヌスキナーゼ)の働きを阻害することで、免疫の過剰な活性化を抑え症状を改善します。ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏とは異なる作用機序を有しています。
抗ヒスタミン薬
アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う湿疹を主病変とする疾患です。強いかゆみはQOL(生活の質) の低下や、搔破行動(そうはこうどう:掻いたり、擦ったりすること)による皮膚症状の増悪をもたらすため、かゆみのコントロールはとても重要です。
ヒスタミンは、原因物質(アレルゲン)が体内に入り免疫が反応することで放出される物質で、アトピー性皮膚炎のかゆみの原因の一つとして考えられています。アトピー性皮膚炎のかゆみは様々な体内物質によって複合的に生じているので、抗ヒスタミン薬だけでかゆみを100%抑えることはできませんが、抗ヒスタミン薬によって、部分的にかゆみを軽減できることが明らかになっています。
ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症外用薬と併用します。
重症に用いられる主な治療薬
生物学的製剤
デュピクセント、ミチーガ、アドトラーザ、イブグリースなど注射によりアトピー性皮膚炎の炎症を抑える薬剤です。既存の治療で効果が不十分で、中等症以上のアトピー性皮膚炎に対して適応となります。それぞれ、投与間隔が異なり、適応年齢も異なりますので表にまとめております。
アトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤
JAK阻害薬の内服
既存の治療で効果が不十分で、アトピー性皮膚炎が中等度から重症の方のための内服薬です。生物学的製剤はIL -4、IL -13、IL -31などの炎症性サイトカインを直接抑制しますが、JAK阻害薬はより上流のシグナル伝達経路の一つであるJAKを抑えることで炎症が起こらないようにします。
1日1度の内服で済むため、デュピクセントなどの注射が苦手な方でも非常に効果のある治療ができます。JAK阻害薬の導入前に結核、B型肝炎、C型肝炎などの感染症の有無などを調べる必要があります。ご希望の方、詳しく話を聞きたい方は医師にご相談ください。
アトピー性皮膚炎に対するJAK阻害薬
生物学的製剤・JAK阻害薬は、極めて効果が高いですが、高価な薬剤ですので、それぞれに合った医療費助成制度の活用をおすすめしております。不明なことは担当医にご相談ください。
医療費助成制度の例
- 高額医療費制度(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/)
- 付加給付(健康保険組合の独自の制度で、加入している健康保険組合により異なる)
- ひとり親家庭等医療費助成制度(お住まいの自治体により異なる)
- 子どもへの医療費補助制度(お住まいの自治体により異なる)
- 学生医療費助成制度(大学などにより異なる)
- 医療費控除(生計をともにする家庭の1年間の医療費が10万円を超えた場合に確定申告をすることにより医療費控除を受けることができる)
シクロスポリン内服薬
保湿薬、ステロイド外用薬、タクロリムス軟膏、抗ヒスタミン薬などの既存治療で、十分な効果が得られない16歳以上の重症の患者様では、シクロスポリン内服薬を検討します。シクロスポリンは免疫抑制剤で、乾癬(かんせん)と呼ばれる皮膚病やベーチェット病など様々な疾患で保険適用になっており、早期にかゆみを抑える作用があります。使用中は腎障害や高血圧、感染症などに注意して、定期的に薬剤血中濃度を測定しながら継続します。通常、8~12週間内服していったん終了し、長期投与が必要な場合は2週間以上の休薬期間をもうけて再投与します。
ステロイド内服薬
急性の全身増悪や重症、最重症の患者様では、寛解導入にステロイド内服薬を用いることがあります。ただし、長期間の内服は、血糖値を上げたり、胃粘膜を過敏にしたり、骨粗鬆症を引き起こすなど、種々の全身性副作用があることから、ステロイド内服薬によってアトピー性皮膚炎を長期間コントロールする治療法は一般的に推奨されていません。短期間(3週間以内がめど)の内服で様子をみたり、増悪したときだけ2、3日内服したりする頓服(とんぷく)療法として処方されます。
アトピー性皮膚炎におけるプロアクティブ治療
外用療法には、症状が現われたときに行うリアクティブ治療と、症状が現われる前から予防的に行うプロアクティブ治療があります。
アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりをくり返すことが特徴です。これは見た目がよくなっても皮膚の深層に炎症が残っていることに起因します。そこで、十分な抗炎症治療で症状が軽快し皮膚がきれいになったあとにも、日常的な保湿薬によるスキンケアに加え、抗炎症外用薬を定期的に塗って症状が抑えられた状態を維持する「プロアクティブ療法」が推奨されています。プロアクティブ治療では、それまで炎症があったすべての部位に塗ることが鉄則です。