2025年8月31日

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと発疹が繰り返しあらわれる皮膚の病気です。お子さんに、夜も眠れないほどの痒みがあるとご家族の皆さんは心配されることでしょう。
厚生労働省の全国調査によると、4ヵ月児の12.8%、1歳6ヵ月児の9.8%、3歳児の13.2%、小学1年生の11.8%、小学6年生の10.6%、大学1年生の8.2%がアトピー性皮膚炎を持っているとされています。このように、実に多くのお子さんとご家族がアトピー性皮膚炎に悩まされているのです。

アトピー性皮膚炎のお子さんの肌は「バリア機能の低下」が見られます。健康な肌では、外からの刺激や乾燥から体を守るバリア機能がしっかりと働いているのですが、アトピー性皮膚炎のお子さんの肌では、このバリア機能が弱まっているのです。
そのため、肌の水分が外へ逃げやすくなって乾燥し、外部からの刺激物質も侵入しやすくなっています。乾燥した肌はかゆみを感じやすく、掻くことでさらに肌が傷つき、バリア機能がさらに低下するという悪循環に陥りがちです。
年齢別にみるアトピー性皮膚炎の特徴
アトピー性皮膚炎の症状は、お子さんの年齢によって現れ方が異なります。年齢ごとの特徴を理解することで、適切なケアにつなげることができるでしょう。
乳児期(0〜2歳頃)のアトピー性皮膚炎
乳児期のアトピー性皮膚炎は、主に頬や口の周りから始まることが多いです。赤みを帯びた湿疹が顔に現れ、徐々に全身に広がることもあります。
この時期は皮脂の分泌が少なく、肌が乾燥しやすい状態です。また、乳児期の食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は別々に治療する必要があります。顔や全身にみみずばれのような赤みとかゆみが現れる場合は、食物アレルギーの可能性も考慮して、専門医に相談することをお勧めします。

幼小児期(2〜12歳頃)のアトピー性皮膚炎
幼小児期になると、症状が現れる場所が変わってきます。肘の内側や膝の裏など、手足の関節部分に湿疹が多く見られるようになります。また、耳の付け根のくぼみに発疹が現れる「耳切れ」と呼ばれる症状も特徴的です。
一般的に、子どもは大人より皮膚の状態がよいと思われがちですが、実は生後3〜4ヵ月から思春期までの子どもの皮膚は、皮脂の分泌がとても少なく、乾燥していることが分かっています。この時期は特に保湿ケアが重要になってきます。
思春期・成人期のアトピー性皮膚炎
思春期以降は、下半身よりも上半身で発疹がよく見られます。顔、首から胸にかけて、背中などに発疹が強く出る傾向があります。
繰り返し掻くことにより、皮膚がゴワゴワと厚くなる「苔癬化(たいせんか)」という状態になることもあります。また、同じ部分をずっと掻いていると、皮膚が硬く盛り上がり、かゆみが持続する「痒疹(ようしん)」と呼ばれる状態になることもあります。
アトピー性皮膚炎の診断と検査
「子どもの肌がかゆそうだけど、本当にアトピーなの?」と疑問に思われるご家族も多いでしょう。アトピー性皮膚炎の診断は、主に症状や経過から判断します。
当院では、日本皮膚科学会による「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に則って診断・治療を行なっています。
アトピー性皮膚炎の状態を把握するために、血液検査を行うこともあります。特にTARC値やSCCA2値は、アトピー性皮膚炎の重症度を評価するのに役立ちます。また、ダニやカビ、ペットなどのアレルゲンに対する特異的IgE抗体検査を行うことで、どのような要因が症状の悪化に関わっているかを調べることもできます。
ただし、注意していただきたいのは、血液検査でアレルゲンに対するIgE抗体が陽性だからといって、必ずしもそれが症状の悪化要因とは限らないということです。血液検査の結果だけで食物を除去することは適切ではありません。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係についても、近年の研究で新たな知見が得られています。かつては食物アレルギーがアトピー性皮膚炎を引き起こすと考えられていましたが、最近の研究では、バリア機能が低下した皮膚から食物が侵入することで食物アレルギーが発症するという仕組みが明らかになってきました。
国立成育医療研究センターの研究では、アトピー性皮膚炎の湿疹をしっかり治療しながら加熱鶏卵を少量ずつ経口摂取させることで、卵アレルギーの発症を減少させることができることが分かっています。このことからも、早い時期から正しい治療を行い、皮膚を良い状態に保つことが大切です。
アトピー性皮膚炎の基本的な治療方針
アトピー性皮膚炎の治療において最も重要なのは「寛解導入療法」です。これは、外用薬をきちんと塗って症状を改善させることが基本となります。
治療の継続は非常に重要です。アトピー性皮膚炎は慢性疾患ですので、症状が良くなったからといって治療を中断してしまうと、再び悪化することがあります。
外用薬による基本的な治療を2〜3週間行った後、効果が十分でない場合は、より強力な治療法を検討することもあります。重症例では、JAK阻害薬や生物学的製剤などの新しい薬剤を使用することもありますが、まずは基本的な外用療法をしっかりと行うことが大切です。
治療費の負担についても心配されるご家族が多いと思います。付加給付金や高額療養費制度などの医療費助成制度を利用することで、経済的な負担を軽減できることもありますので、お気軽にご相談ください。

スキンケアの重要性
アトピー性皮膚炎の治療において、薬物療法と並んで重要なのがスキンケアです。乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を正常に保つためのスキンケアは、アトピー性皮膚炎の標準治療の一つとされています。
症状が重いときだけでなく、軽いときにもスキンケアを継続することが大切です。スキンケアの基本は、清潔な皮膚を保つための入浴と、皮膚のうるおいを保つための保湿です。
最近の研究では、新生児期の早い段階から全身に保湿剤を塗ることで、アトピー性皮膚炎になるリスクを3割減らすことができたという報告もあります。保湿をこころがけ、皮膚を乾燥させないことが予防にもつながります。
日常生活でのスキンケア方法
アトピー性皮膚炎のお子さんのスキンケアは、日々の生活の中で継続的に行うことが大切です。ここでは、入浴と保湿という基本的なスキンケアの方法についてお伝えします。
正しい入浴方法
入浴は皮膚を清潔に保つために重要ですが、方法を間違えると逆に肌を乾燥させてしまうこともあります。アトピー性皮膚炎のお子さんの入浴では、以下のポイントに注意しましょう。
まず、体を洗うときは石鹸をしっかりと泡立てることが大切です。固形石鹸の場合には泡立てネットを、液体石鹸の場合には泡立てネットやペットボトルを活用すると良いでしょう。泡で優しく洗うことで、肌への刺激を最小限に抑えることができます。
湯温は38〜40℃のぬるめのお湯を使用し、長時間の入浴は避けましょう。熱いお湯や長時間の入浴は皮膚の乾燥を招きます。入浴後は、清潔なタオルで軽く押さえるように水分を拭き取り、すぐに保湿剤を塗りましょう。
入浴は毎日行うことが理想的ですが、症状が悪化している場合は、医師と相談して入浴の頻度や方法を調整することも必要です。
効果的な保湿方法
保湿は、皮膚のバリア機能を補強し、乾燥を防ぐために非常に重要です。保湿剤は入浴後、皮膚が温まって柔らかくなっている間に塗るのが最も効果的です。入浴後15分以内に保湿を行いましょう。
保湿剤を選ぶ際は、お子さんの肌の状態や好みに合ったものを選ぶことが大切です。一般的には、ワセリンなどの油脂性の高いものは保湿効果が高いですが、べたつきが気になる場合は、クリームやローションタイプを選ぶとよいでしょう。
保湿剤は、少量ずつ手に取り、優しく円を描くように塗り広げます。こすらずに、皮膚に吸収させるイメージで塗りましょう。特に乾燥しやすい部位(顔、首、手首、肘の内側、膝の裏など)は丁寧に保湿することが大切です。
保湿は1日に複数回行うことが理想的ですが、最低でも朝と入浴後の1日2回は行いましょう。

子どものアトピーと向き合う家族の心構え
アトピー性皮膚炎のお子さんを育てるご家族は、日々のケアや症状の変化に心を砕かれていることと思います。ここでは、お子さんのアトピーと向き合う上での心構えについてお伝えします。
まず大切なのは、「完璧を求めすぎない」ということです。アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。症状が悪化したからといって、それがすべて親の責任ではありません。
私が診療で出会うご家族の中には、「もっと早く気づいていれば」「もっとしっかりケアしていれば」と自分を責めてしまう方がいらっしゃいます。しかし、アトピー性皮膚炎の悪化には様々な要因が関わっており、すべてをコントロールすることは難しいのです。
あるお母さんは、お子さんのアトピーが悪化するたびに自分のケア方法が間違っていたのではないかと悩み、夜も眠れないほど心配されていました。しかし、正しい知識を得て適切なケアを続けるうちに、少しずつお子さんの症状が安定し、ご自身の心の余裕も生まれてきたとおっしゃっていました。
子どものアトピーと向き合うには、長い目で見ることが大切です。一時的な悪化に一喜一憂せず、継続的なケアを心がけましょう。
子どもの自己管理能力を育てる
お子さんが成長するにつれて、自分自身でスキンケアや症状の管理ができるよう、少しずつ教えていくことも重要です。
幼児期から小学校低学年くらいまでは、保護者の方が中心となってケアを行いますが、小学校中学年以降は、お子さん自身にも保湿の習慣や薬の塗り方を教えていきましょう。
ただし、いきなり「自分でやりなさい」と言っても難しいものです。最初は一緒に行い、徐々にお子さん自身ができることを増やしていくとよいでしょう。
また、アトピー性皮膚炎のことを友達や先生に説明できるよう、年齢に応じた言葉で病気のことを教えておくことも大切です。「お肌が乾燥しやすいから、保湿クリームを塗るんだよ」など、シンプルな説明ができると、学校生活でも安心です。
学校・園生活での注意点と対策
アトピー性皮膚炎のお子さんが保育園、幼稚園、学校で過ごす際には、いくつか配慮が必要な点があります。ここでは、集団生活の中でのアトピー対策についてお伝えします。
まず、園や学校の先生にお子さんのアトピー性皮膚炎について伝えておくことが大切です。症状の程度や、特に注意が必要な点(例:汗をかいた後はすぐに拭いてあげてほしい、プールの後はしっかり保湿してほしいなど)を具体的に伝えておきましょう。
必要に応じて、保湿剤や薬を園や学校に預けておくこともできます。その場合は、使用方法を明確に伝え、「与薬指示書」など必要な書類を用意しておくとよいでしょう。
また、お子さん自身にも、かゆくなったらどうするか(掻かずにタオルで押さえる、先生に伝えるなど)を教えておくことも重要です。
運動や行事への参加
アトピー性皮膚炎があっても、基本的には運動や行事に参加することができます。ただし、汗をかくとかゆみが出やすくなるため、いくつかの工夫が必要です。
運動前には、症状が悪化している部位に薄く保湿剤を塗っておくと、摩擦による刺激を軽減できます。運動後は、できるだけ早くシャワーを浴びて汗を流し、保湿を行うことが理想的です。
水泳の際は、塩素がアトピー性皮膚炎を悪化させることがあります。プール後はすぐにシャワーで塩素を洗い流し、しっかり保湿することが大切です。
遠足や修学旅行などの行事では、保湿剤や薬を持参し、定期的にケアができるよう準備しておきましょう。また、宿泊を伴う行事の場合は、寝具のダニアレルギーがある場合には、自分の枕カバーやシーツを持参するなどの対策も考えられます。
アトピー性皮膚炎の最新治療
アトピー性皮膚炎の治療は近年、目覚ましく進化しています。従来のステロイド外用薬や免疫抑制外用薬に加え、新たな治療選択肢が増えてきました。
2025年現在、中等症以上のアトピー性皮膚炎で従来の治療でコントロールが難しい場合には、生物学的製剤や分子標的薬を併用することも可能になっています。
生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の炎症に関わる特定の物質だけを標的にして働く注射薬です。従来の治療で効果が不十分な場合や、広範囲に強い症状がある場合に検討されます。
また、JAK阻害薬と呼ばれる内服薬も、難治性のアトピー性皮膚炎に対して使用されるようになってきました。これらの新しい治療法は、従来の治療では十分な効果が得られなかった患者さんに新たな選択肢を提供しています。駒沢自由通り皮膚科でも、生物学的製剤やJAK阻害薬による治療ができますので、お気軽にご相談ください。相談しながら、お子さんに最適な治療法を選んでいけると良いですね。
まとめ〜アトピーとの上手な付き合い方
アトピー性皮膚炎は、完全に治すことが難しい慢性疾患ですが、適切な治療とケアによって症状をコントロールし、お子さんとご家族が快適に過ごすことは十分に可能です。
まず大切なのは、正しい知識を身につけることです。アトピー性皮膚炎の特徴や年齢による症状の違い、基本的なスキンケア方法などを理解することで、日々のケアに自信を持って取り組むことができます。
次に、継続的なケアを心がけましょう。症状が良くなったからといって治療を中断せず、医師の指示に従って継続することが大切です。特に保湿ケアは、症状の有無にかかわらず毎日続けることが重要です。
また、お子さんの成長に合わせて、徐々に自己管理能力を育てていくことも大切です。小さいうちは保護者が中心となってケアを行いますが、成長とともにお子さん自身ができることを増やしていきましょう。
最後に、一人で抱え込まず、周囲のサポートを活用することも重要です。医師や看護師、保育園や学校の先生、同じ悩みを持つ他のご家族など、様々な人のサポートを得ながら、アトピーと上手に付き合っていきましょう。
当院では、アトピー性皮膚炎でお悩みのお子さんとご家族に寄り添い、最適な治療とケアをご提案しています。皮膚科専門医として、お子さんの肌の健康と、ご家族の笑顔のために尽力いたします。どんな小さなことでもお気軽にご相談ください。
詳しい情報や診療予約については、駒沢自由通り皮膚科のウェブサイトをご覧いただくか、お電話でお問い合わせください。皆様のご来院を心よりお待ちしております。
監修:白石 英馨(しらいし ひでか)
駒沢自由通り皮膚科 院長・日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
東京慈恵会医科大学医学部卒業後、同大学附属病院や関連病院にて皮膚科診療に従事。アトピー性皮膚炎やニキビといった一般皮膚疾患から、ホクロ・イボの外科的治療、美容皮膚科領域まで幅広く経験を積む。
2025年3月、世田谷・駒沢に「駒沢自由通り皮膚科」を開院。小さなお子さまからご高齢の方まで、地域に根ざした“かかりつけ皮膚科”として丁寧でわかりやすい診療を心がけている。
- 所属学会:日本皮膚科学会、日本美容皮膚科学会 ほか
- 専門分野:皮膚科一般、小児皮膚科、美容皮膚科、日帰り皮膚外科手術
